副業解禁が個人と企業にもたらす影響と副業が容認されるようになった背景


 
副業について生活のためだけではなく本業では得られない経験や自己実現をしたいといった方向に人々の関心が移ってきており政府も2016年に「働き方改革」、2018年1月には副業・兼業に関するモデルについて「副業解禁」の形をとることで個人の働き方の多様性を後押しする流れが強まっています。

(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

この改訂が意味するのは、会社の競合になって利益を反する場合を除いて企業は従業員の副業・兼業に対して容認しなければいけないということです。これまで「原則禁止」とされていた副業が「個人の自由」となったことで大きく流れが変わったのです。

こういった政府の後押しも受けて2018年4月に新生銀行が日系の大手銀行として初めて副業を解禁しました。また、昨年12月にコニカミノルタが社内のイノベーション促進を目的として副業を解禁し、ソフトバンクやDeNAも昨年10月頃に時を近しくして副業を解禁し話題になりました。

その他にもリクルートや花王、ロート製薬、ソニー、NTTデータなどの大手企業も副業をすでに解禁しています。大手企業の人事制度は古くて堅い印象がありましたが意外にも多くの有名企業で副業の文化は根付いているようですね。その他に大手企業で副業を容認している企業を知りたい方はこちらの記事に詳しく書きましたのでよろしければご覧ください。

また、副業に対する捉え方もここ数年で大きく変わってきたように思えます。以前であればお小遣い稼ぎの意味あいが強かったように感じますが、それなら現職に多くの時間を使ってベースでの賃金を上げることを優先した方が効果は大きいでしょう。

ただ、近年では「本業では裁量権がまだまだなく正直やりがいや楽しさがない」と思っている方が本業とは別でコミュニティを持ってスキルアップややりたいことをすることで自己実現や自己肯定感を高めることにつなげるといった報酬以外での動機が目立っているように思います。

そして、はじめはお金にならなかったとしても好きでやりがいがあることなら継続をすることができうまくなってくると市場価値はおのずと上がってくるので結果的に報酬が上がっていくという人も多くいます。

なので、「この時代の流れにのって副業をはじめてみようかな」と思った時には副業や兼業をすることがあなたの人生を豊かにしてくれることなのかという観点を持って検討してみるのはいかがでしょうか。

好きなことは何か?楽しみながらお金になりそうなことは何かといった考えを持って副業を探すと心も豊かになりますよ。



副業解禁となった背景

10年ほど前にさかのぼると副業を容認する企業はほとんどありませんでした。また、副業をすることに対して否定的な意見がほとんどで社内の仕事に専念することが当たり前の文化でした。この時代の雇用の特徴は終身雇用と長時間労働で、働いた分だけ収益に直結するモデルがあったこともあり従業員には勤勉さと従順さが求められ、その対価として企業からは安定した雇用と給料が支払われていました。

しかし、こういった主従関係は企業が収益をあげられなくなってくると一方的に偏りができます。2008年9月に起きたリーマンショックの際はこれまで黒字だった企業が赤字に転じ、多くの企業が耐えきれずに人員削減や減給、吸収合併、廃業に追い込まれました。こうなると企業が従業員の生活を守ることが難しくなり、生活を守るための副業であるなら勤務時間外で容認する形になりました。

また、その後もインターネットの大幅な普及によるテクノロジーの高度化やグローバル化による国際競争力が激化したことによって東芝やシャープといった優良大手企業も大幅なリストラに踏み切るようになりました。これまで暗黙の了解としてあった分かりやすい安定のモデルがなくなったことを理解するには十分だったのではないでしょうか。また、課題先進国と言われるように労働者人口の減少が今後ますます深刻化していくためこれまで以上に多くの日本企業が苦戦していくことが予想されます。

では、安定とは何なのでしょうか?正直、不安を完全に消すことはできないと思います。しかし、この不安を小さくすることはできます。

私が思う不安を小さくする方法は「自分で自分に給料を払える状態を作ること」です。ただこの自分に対して支払う給料は、少額だと生活していくことはできませんし家族を養っていく必要があればそれ相応に稼がなくてはいけません。

ただ、それだけのお金を稼ぐことは専業ではなく会社の仕事をやりながらの副業ではなかなかにハードルが高そうです。なので、スモールスタートではじめてみてやりがいや楽しさを感じて収益をあげていくことができたら独立をするといった形を目指すのが現実的でいいかと思います。近年ではそうやって独立することも珍しくなくなってきましたので。

このように個の力に注目が集まっており長寿命化により労働期間が長くなった現代では「どのようなキャリアを自分は築きたいのか」と自分自身に問いかけることが大切になってきます。なので、自分で主体的にキャリアの設計をして「自分らしさ」とは何かと一度時間をとって考えてみてはいかがでしょうか。



副業解禁が企業と個人に及ぼすメリット

優秀な人材の流出を防げる

優秀な人材が熱中できる面白い仕事を適切に振れている企業は多くありません。優秀な人材は、その界隈では有名になるもので個人的な案件の依頼や他社でのプロジェクトベースの案件へのオファーメールがくるようになります。

そして、優秀な人ほど自分の力が発揮できるプロジェクトには魅力を感じるもので、現職で自分でなくてもできる仕事ばかりをさせられていたらなおさらです。ただ、働いている会社が副業禁止だとせっかくの案件を受けることができません。そういったことが続いていると、フラストレーションや会社への不信感は日に日に強まっていきますよね。

そんな時に副業ができて信頼のおける知り合いが生き生きと働いている会社からオファーがきたらよほどの理由がなければ引き抜かれてしまいます。これは企業にとっては大きな損失で競合他社に移れば大きな脅威となることは明らかです。そのような状況を避ける一つの手段として副業の解禁は効果的でしょう。

優秀な人材の採用と採用の選択肢の多様化

先ほどの「優秀な人材の流出を防ぐ」にも近いのですがまだ多くの競合他社が副業を解禁していないのであれば、副業解禁は明確な他社との差別化となり副業を容認している会社を希望する優秀層を引き抜くことができます。

また、会社の採用予算には限りがある場合がほとんどなので「正社員として雇いたいけど予算の都合上難しい」ということが起きた場合にも優秀な人材をスポットで活用することによって費用対効果の高い採用を行うことができるので企業と個人の双方に良い影響があると言えます。

社員の自発的な能力開発

副業や兼業をすることで社員は能力開発を自主的に行うようになります。通常、社内研修をすると年間で数十万近くかかる教育コストを払うことなく仕事で使えるレベルの専門性が身につくのです。

しかも自分にとってやる目的がしっかりしていて好きなことであればこだわりが生まれるため社員の成長速度や仕事の質に大きな差がでます。また、自社では年齢やポストが空いていないといった理由で任せることができなかったマネージャー職も社外で経験することができればより視座の高い提案につなげることができるため効果は大きいです。

イノベーティブ人材の創出

普段、上司から与えられた仕事をしていると考える癖がどんどんなくなっていき創造性を必要とする新規事業の立案や日々の業務の効率化などに目がいかなくなってくるものです。

しかし、自分でゼロから事業を作って収益モデルまで考えて実行してみたり他社で新規事業の創出に関わったりすることで決断回数やどうやったらうまくいくなのかと自分事に考える機会が増えます。

なので、副業解禁は多くの企業が喉から手が出るほど欲しいプロ意識の高いイノベーティブ人材を創出することにつながるため大きな効果が期待できます。

市場価値の向上と副業だからこそ築ける人脈

例えば、普段IT企業でエンジニアをしているAさんがいたとします。このAさんが「エンジニアの仕事自体は好きなんだけど機能的なところよりも自分が作ったものを使うユーザーに刺さるようなコンテンツはどういうものなのか考えたい」と思うようになったとします。

そして、本屋さんに行って興味が惹かれたマーケティングの本が面白く思いの外はまった。ただ、自社ではエンジニアはマーケティングの仕事はできないという決まりがありました。

そこで、マーケティングの知識のインプットと並行してアウトプットのためにメディアを立ち上げてユーザーのペルソナ分析やより実践的なマーケティング手法に手を出すようになる。すると、メディアで成果が出始めてマーケターが集まる勉強会に参加して情報交換をするように。

このようにAさんは興味があって好きなマーケティングの勉強を個人でやったことで、マーケティングに強いエンジニアというポジションを手に入れることに成功しました。すると、自社のマーケターの会議にも出席が求められるようになり副業で得た人脈を活用することにもなりました。これは、エンジニアだけを自社でやっている時には想像もできなかったキャリアで副業解禁の賜物だと言えるでしょう。

まとめ

今回は今話題の副業解禁について副業が解禁されるようになった背景や企業と個人にもたらす影響についてお話しましたがいかがでしたでしょうか。

今後さらにこの副業容認の流れは進んでいくと思われます。そして、働く期間が長くなることが予想されるこれからの時代では自分らしいキャリアを設計するためにはどうしたらいいかをじっくり考えみることは非常に大切です。

自分は将来何がしたいのか、好きなこと興味があること考えただけでワクワクすることについて忙しい中でも意識的に時間をとって紙とペンだけを持って落ち着いた空間にいき自分と向き合ってみるのはいかがでしょうか。