上司は部下を手とり足とり指導すべきか結果だけを見るべきか?

社会人で年次が上がってくると部下ができ始めますよね。

すると、どういう指導をしたら自分にとって、部下にとって良いのだろうかと悩まれるのではないでしょうか。

ある程度経験のある部下に対しては任せることもできるでしょう。しかし、新入社員や任せた業務に対して経験が浅い社員となるとやり方を1から手取り足取り教えるべきか、はじめにやり方だけを教えて結果だけをみるべきか悩むのではないでしょうか。

・部下の指導はしたいとは思っているのだけどやり方がわからない。

・部下の指導をしないといけないとは思っているが、自分の業務で手一杯になってて指導するどころじゃない。

・20代前半で部下はまだいないが将来部下ができたときに効果的な指導をするために勉強したい。

このように考えているあなたに向けて、部下の指導がもたらすいい影響や指導する上での具体的な方法を書きました。

では、効果的な指導ができればあなたはどのように変わることができるのでしょうか?

・後輩の指導ができるようになると周りから一目置かれてキャリアアップにつながる。

・職場での居心地が良くなり今まで以上に周りとのつながりを感じながら仕事ができる。

・部下に力がついてきて任せることができるので、本来自分の役職でするべき業務に集中出来る。

ただそうは言っても、日々の業務が忙しくて部下の教育が後回しになってしまう。また、実際に指導をしているけどやり方が分からずどういった指導が良いものなのかわからない。と、悩まれているのではないでしょうか?

そこで、社員教育に関する日本と海外の考え方の違いやそもそもどうして部下の教育が必要なのか、またリクルート、トヨタ、Googleなどの優良企業が実際に行っている事例をもとに良い指導方法とはなにかということを一緒に考えていきましょう。



日本と海外の社員教育に関する考え方の違い

日本の社員教育

日本は終身雇用を前提としていて長期的に人材を育てて年齢や役職に応じて仕事の大きさや責任を与えていくモデルです。なので、社員教育としてはOJT (On the Job Training )で日本流や自社流の働き方を徹底的に教え込まれます。しかし、せっかく長い期間をかけてOJTをしたとしてもそこで得た知識や技能は、自社では通用しても他社や海外では通用しないことが多いです。特に社内で優秀といわれている社員ほど転職の際に苦労することも起こりえます。

近年の就活でよく言われるのは、「成長と裁量権」というマジカルワードです。ただ、成長というのが自社の中で仕事が早くなることや根回しがうまくなることにいつの間にかすり替わってはいませんか?

もし、明日リストラになったりしたいことが見つかって退社したいと思った時にあなたが積みあげてきたものは他社でも通用しますか?この成長に関してトイ・アンナさんが、圧倒的成長をしたら転職できなくなっていたという記事を書いていてなるほどなとなったのでよければ。

※OJT : 社員が業務を行う上で必要なスキルを実際の仕事を通じて学んでもらう制度。

海外の社員教育

そもそも、欧米では日本のような「新卒」という採用市場自体が存在しません。欧米では労働市場が流動的なため、欠員が出たら補充するという通年採用が基本です。なので、「入社後に社会人として育てる」という日本の新人研修のようなスタンスはなく、即戦力を求めます。業務においても、一つのプロジェクトのスパンが短いため決断する回数が多く、裁量権を多く与えることが特徴的です。裁量権が大きいということはその分責任感も大きいですが個人の違いを表現する機会になり各社員の違いこそが創造性を高め、その結果生産性や革新性が促されます。

OJTに関しては、日本のような長期間 (1~3か月)ではなく短期間(1週間~1か月)で仕事に使う知識を詰めて現場に出して実際の業務の中で学びます。また、実際のプロジェクト単位で動くのでどの業界でも適用できる汎用性のあるスキルがつきます。そして、バッドパフォーマーと見なされれば退場を促して優秀な人材と入れ替える新陳代謝を通じて組織の活力を維持しています。

ここまで見ていると、海外の社員教育は入社後のOJT期間が短くパフォーマンスが低ければ退場とかなり厳しく見えますよね。ただ、入社した社員のスキルアップや人材育成研修には、日本企業に比べるとより積極的で後ほど紹介します。(Googleのワン・オン・ワンなど)



上司が部下に教育をする目的とは?

そもそも部下を教育する目的ってなんなんでしょうか?

それは、プロジェクト単位でのパフォーマンスをあげて会社の業績を上げることやチームの成果を最大限にすることです。

教育を効果的にして部下の生産性を上げると、自分の役職じゃないとできない仕事にフォーカスできるようになってきます。

また、業績が上がり部下の教育やパフォーマンスが評価され昇進につながります。

例えば、自分の部下たちに全3回の講義を受けさせることを考えて欲しい。1時間の講義に4時間の準備が必要だとして講義をするのにかかる時間は12時間。仮に5人に指導したとすると、来年部下たちは合計約1万時間会社のために働きます。あなたの教育によって部下たちの業績が1%向上するならあなたの12時間は会社やチームの100時間に換算されることになり業績や成果が上がることは明らかです。

それでは、効果的に部下に成長してもらうにはどうしたらいいのでしょうか?

ここで、成長を因数分解すると…

成長=決断回数×責任の重さ

で表せます。なので、日系や外資、大手や中小に関係なく決断回数と責任の重さを共に上げることが部下の成長につながります。

日本と海外の事例の紹介

それでは、日本や世界で活躍する企業の実際の例から上司から部下への教育を見ていきましょう。

リクルート

まずは、日本の中でも非常にユニークな人材を輩出することで有名なリクルートの指導法を紹介します。リクルートの社員の方は「誰かに与えられて」仕事をするという意識を持っておらず、「お前はどうしたい?」や「どうしてそう思うのか?」という問いかけを上司が部下に対して行います。こういった訓練を日々行っていると自分の頭で考える習慣が身につき当事者意識を持って仕事に取り組むことができます。

トヨタ

次に紹介するのは、日本のトップカンパニーであり世界でも有数の企業トヨタの教育法です。トヨタは終身雇用を前提としていて長期熟成型の人材活用に力をいれています。トヨタの会議室には、各役職ごとの会議1時間あたりの単価が書いてあり生産性を意識しているのが非常に印象的でした。そんなで、上司が部下に行っていることは部下がした行動で失敗したことがあれば、なぜ失敗したのかを5回問うというものです。このやり方はリクルートとも近いですね。

Google

最後に紹介するのは、資産価値が世界TOPのGoogleの社員教育法です。Googleでは、ワン・オン・ワンと呼ばれる上司との進捗ミーティングが毎週行われます。毎週のミーティングで必ずその日話す内容を決めて全て話し終わった後に来週までにすることのリストを作り上司に渡します。このように上司と常に現在行っている業務をシェアできるので進捗を互いに管理しやすく業務に一貫性が生まれ非常に効率的にプロジェクトを進めることができます。また、ミーティングの際に今後のキャリアについての相談も行うことで成長の機会を与えてもらうこともできます。



部下の成長を促す指導法

ここでも成長に関する公式を使って説明していきたいと思います。成長=決断回数×責任の重さとすると、決断回数と責任の重さを共にあげられる環境が成長できる環境ということになりますね。ここで、決断回数と責任の重さを共に上げる方法を4つほど紹介します。

部下に自分の頭で考える機会を提供する

自分が答えを持っている状態で部下に「君はどう思う?とかどうしたらいいと思うか?」を語りかけて自分の頭で考えれるような人に育てる。

業務の全容を伝える

任せている職務内容にどれだけの費用や人が関わっているのかを説明し会社の業績にどのくらい影響が及ぶかを部下に伝えることで責任の重さを感じてもらう。

権限の分配を行う

「OOな案件があるんだが,君の意見を参考にしたくて,君だったらどう思う?」といった形で、自身が有している案件を積極的に共有,相談することで当事者意識を持ってもらい良ければ意見を採用してダメならその理由を考えてもらい的確にフィードバックを行う。ただ、最終決定はあくまで上司が行う。

業務に必要なインプットを促す

 自分の尊敬する上司にオススメの本を聞いてみて実際に自分でも読んでみてよかったら勧めて、ランチタイムに仕事で使えそうな内容をまとめて部下に5分程度で話してもらい、これを習慣化されるまで続ける。これを続けていると、共通の内容を共有しているため頭の中がつながりやすく意思疎通の弊害が減り仕事がやりやすくなります。またこの際の本のチョイスは技能的ではなくマインドのほうに重視した方が望ましい。

まとめ

日本と海外の社員教育の違いや部下への教育がもたらすメリットや日常の業務に落とし込む方法を書きましたがいかがだったでしょうか?部下の教育に関して世界的に有名なインテルの元CEOのアンドリュー・S・グローブは著書「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」の中で「教育をしないことにおける問題は、部下の授業料を顧客に払わせていることにある」という見解を示していて深く考えさせられました。もし、みなさんに部下が一人でもいるのであれば、「自分のことで精一杯で部下を教育する時間なんてないよ。」と考えたくなる気持ちもあるでしょうし実際に大変なのだとお察しします。しかし、そんな中少しでも自分の時間を割いて彼らのスキルやモチベーションをあげるにはどうしたらいいかなど考えてみるのはいかかでしょうか。そうすれば、チームとしての成果は上がり自分の仕事が楽になりますし、気持ち良く働けるようになるのは間違いありません。

参考文献

[1].アンドリュー・S・グローブ, ベン・ホロウィッツ: “HIGH OUTPUT MANAGEMENT–人を育て、成果を最大にするマネジメント”, 日経BP社, 2017/01.
[2].ロブ・ゴーフィー, ガレス・ジョーンズ: “DREAM WORKPLACE–だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる”, 英治出版, 2016/12.
[3].杉田 浩章: “リクルートのすごい構“創”力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド”,日本経済新聞出版社, 2017/05.